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人の苦しみを想像…西加奈子さん 林典子さん – 読売新聞

 テロ、戦争、地震――。遠い地の悲しいニュースを、当事者でない私たちはどう受け止めればよいのか。シリアから養子に来た少女が主人公の小説『アイ』(ポプラ社)を書いた作家・西加奈子さん(40)と、イラク北部にいた少数民族ヤズディの写真集『ヤズディの祈り』(赤々舎)を出した林典子さん(33)。2人は、誰かの苦しみを想像することで、人は他者とつながることができると語り合った。

 ――『i』の主人公は、自分の恵まれた環境を思う度に<どうして自分だったのだろう>、他人に不幸があれば<どうして、私ではないのだろう>と苦しくなります。こういった話につながる原体験があったのでしょうか。

 西 エジプトに住んでいた小学生の頃、靴を履いていないエジプト人の友達と遊びながら、自分だけきれいな所に住んできれいな服着ているのが、苦しくて恥ずかしかった。思い続けるとしんどいから、大人になるにつれて、目の前の幸せを守るようになったけど、いずれ当時の思いを整理して小説に書きたいと思っていました。

 ――一方、林さんの写真集は、2014年にイスラム過激派組織「イスラム国」の侵攻を受けたヤズディの人たちを取り上げていますが、日々の暮らしを淡々と撮っているのが印象的です。

 林 報道写真家は一枚で全てを語れる写真を求めがちです。でも、私は例えば、ヤズディ自身が撮影した平和だった頃の日常写真にひかれました。誕生日会やカメラ目線でふざけている男の子の写真など、こういうことは日本の子供もやるし、私自身そうだったかなと思い巡らすと、感情的につながった気がして、その時、日本の人にも想像力を持ってヤズディと向き合ってもらえる本を作りたいと思いました。

 西 役割分担ですよね。小説は思いの全てをつまびらかにしてしまう癖があるけど、写真は語り過ぎないところがある。補い合えるんやと、思いました。『i』で「想像すること」と何回も書いたけど、写真一枚でもそれができる。心強い気持ちになりました。

 林 ありがとうございます。私が写真を撮ったからといって彼らのあしたが変わらないのは痛感しているんですが、遠い日本で、彼らのことを思う人が生まれることで、何か変わっていくんじゃないかと思いました。

 西 私は現地に行ったわけでもなく、暖かい部屋で膝に猫がいる状態で小説を書いている。だけど、じゃあやめとくという選択肢はない。林さんが写真を撮って、私は小説を書いて、誰かが歌を歌って、誰かが声を上げて……。表現する時の非力さみたいなものはありますよ。でも、無力と思っている人間が多いほどいいと思うので。『i』の登場人物は、いい人が多いですが、意識的に、私がこういう世界であってほしいと書いている。世界はいい人ばかりでないことを書いてくれる作家がいっぱいいるからでもあります。

 林 私もすごく共感するところがあって、フリーの私はたった一人で行くので、できる取材は限られている。イラクで起きた「出来事」を検証し伝える人は必要ですが、私はヤズディ一人一人が大事にしてきたものを記録したいと思いました。伝える人がたくさんいるなら、自分は「一部」でいいと思っています。

 西 小説は終わりがあるけど、世界にはない。The Black Eyed Peasという好きな音楽グループが、9・11の同時テロなどを受けて2003年に「Where Is the Love?」という曲を出して、昨年、また同じ曲の新バージョンを出した。「いいんだ」と思いました。『i』を書いたから終わりということは作家としてはないと、すごく思います。

 林 私の場合も、写真集が出たからといって、取材をしてきた人たちの人生は終わらない。イラクに行く度にお世話になったヤズディの通訳の方がアメリカに移住したので、3月に行ってきたばかりです。これからも続くんだと思います。(司会・十時武士)

 ◇にし・かなこ=作家。1977年、イラン生まれ、エジプト、大阪育ち。2004年、『あおい』でデビュー。15年、『サラバ!』で直木賞受賞。

 ◇はやし・のりこ=写真家。1983年生まれ。大学在学中に西アフリカを訪れ、現地の新聞社で写真を撮り始める。2011年、名取洋之助写真賞受賞。




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